リョウ達が広場に着くと、そこはパニックになっていた。
人々が声を上げて逃げ惑っている。
2人は人の波に逆らって、広場の中心に向かった。
広場の中心には4〜5人のZEROの手下・・・つまり、あの黒装束の兵士がいる。
何かを探しているようだ・・。しきりに辺りを見渡している。
「一体・・・何を?」
「さぁ? でもさぁ・・・彼らが探すものといえば・・・一つしかないと思うんだけど?」
・・・暫くリョウは考える。今までの経緯も含めて・・・だ。
まさか・・・。一つの嫌な考えが頭をよぎる。
「歯車・・・ですか?」
「多分ね。今まで襲われたのだって、僕たち、歯車を殺すためでしょ?」
「だったら・・・狙いは僕たちって事ですか。なら!!」
「うん。このまま町の人達に迷惑かけるにはいかないよねぇ・・。」
「・・・・。」
「戦える?」
サクラは優しくリョウに問いかけた。
サクラさんにだけ、任せておくことは出来ない。
自分も歯車の一人だ。出来る限りの事をする。
そう決めた。
「・・・もちろんです!!」
真っ直ぐな眼でリョウはサクラを見返す。
強いな・・・ろくに武器を持って戦ったこともないだろうに。
「OK。でも、危ないなって思ったら下がってて。君は僕と違って能力がないんだからさ♪」
そう言うとサクラは兵士達の前に進み出た。リョウも後を追う。
「はいはーい!! そこの兵士さん! お探し物はこれかなぁ?」
そう言って彼は腕をまくると十字架の痣を見せた。
兵士たちの表情が変わる。
「歯車・・・・見つけた。ZERO様の命により・・・その命、貰う・・・っ!!」
サクラの予測は当たっていた。彼らの狙いは間違いなく「歯車」
兵士たちは次々にサクラに向かっていった。
振りかざされる剣をサクラは軽やかな足取りでかわしていく。
戦い慣れしてるな・・・そうリョウは思った。
リョウは慣れない動きで兵士たちの剣をかわし、持っていた短剣で切りかかる。
「リョウくーん! 下がって!! 能力使うからさ〜っ」
「!! は、はいっ!」
サクラの声を聞くや否やリョウはすばやく後ろに下がった。
「我の声は大地の声、我の気は大地の怒り、契約の元、かの者達に裁きを!」
サクラの呪文の詠唱が始まると彼の足元に魔方陣が現れる。魔方陣から溢れる光の量は増し、周囲に広がっていく。
大地がうねる・・・。あの力だ。
「OKっ! 詠唱終わり!! ハーゼンクラフト!!」
サクラの軽い掛け声と共に彼の周囲に重力がかかる。
兵士たちの体が崩れおちていく・・・。
ふと、リョウは違和感を感じる・・。
あっさりしすぎていないか?
サクラさんが呪文をとなえた途端、奴らは急に抵抗しなくなったのだ。
観念したのだろうか・・・。
しかし・・・・。
「・・・・いい。これで、予定通りだ・・。」
兵士の一人が息絶え絶えに叫ぶ。
・・・予定通り?
奴はサクラさんがこの力を使うのを予想してたというのか!?
リョウの胸に微かにざわめきが起こる。
嫌な予感がする・・・。
その時だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
兵士たちのいる近くの茂みですさまじい悲鳴が聞こえた。
人の声!!
「サクラさん! 力の発動を止めてください!!」
「え?」
「近くに人がいます! 兵士の近くに!
このままだったら、その人までサクラさんの力で体が潰されてしまいます!!」
「!!」
サクラは急いで力の発動を止めた。
周囲の重力がみるみるうちに戻っていく・・・。
「リョウくん。あの茂みだね? 君はそこに行って。兵士は僕が片付けるから。」
「はいっ!」
リョウは走って茂みに向かった。
嫌な予感がする。
あの悲鳴の声は聞いたことがある・・。
どうか、この予想が外れていますように・・・!
周囲の地面は、重力の影響で無残なものだった。
草も花も、押しつぶされていた。
リョウは祈る気持ちで微かに残っている茂みを掻き分けた。
地面に広がるは息を呑むであろう蒼い髪・・・・。
体のあちこちは傷だらけで、服もボロボロになっている。
息はしているのかいないのか・・・・。
「ルカ・・・・ネオタール・・・・。」
リョウはかすれそうな声で目の前に横たわっている少女の名をつぶやいた。
どうか、この予想が外れていますように・・・!
彼の願いは打ち砕かれたのだ。
第十三章 〜時の一座〜 Fin